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“トップページへ”は不要。常識を疑うと見えてくる客の姿 [企業ホームページ運営の心得] | Web担当者Forum

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Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の弐百伍十

常識の否定

社会人なら「常識」は身につけておきたいものです。応接室セットでの席順はもちろん、名刺の受け取り方に「弊社の鈴木社長は」と呼ばないようにです。日本社会において「身内」の紹介は、たとえ社長であっても「ウチの鈴木が」と「呼び捨て」が基本です。

とはいえ、この「常識」というのが曲者で、疑いもなく当たり前と思っていることに根拠や理由にメリットがないどころか、デメリットとなっていることもあります。それはWebの世界でも同じ。「常識」と思い込んでいることで潜在的需要を見落としていることがあります。

先日、都心で親族が集まる用事があり、会場のセッティングを任されました。各種グルメサイトで探してみると、なかなか不便であることに気がつきます。グルメサイト側の「常識」にはない需要を見落としています。これについては最後に。

今回は「常識」による取りこぼしについての仮説です。

きっかけはダメサイト

常識を疑うきっかけとなったのは、ある洋品店のサイトの相談を受けたときのことです。こうした疑問をアクセス解析で検証できるのはWebの強みです。しかし、明確な戦略も目的もないサイトの診断は難しく、アクセスログを取っていない(会社はいまも多く実在します)ことから、「見た目と使った感想」からのアドバイスしかできないと断ったうえで、サイトを回遊していると「トップページ」の重要な問題が目につきました。それは最近のWebサイト制作における「常識」の部分です(トップページは正しくはホームページですが、習慣的な表記として本稿ではサイトの最上位をトップページと呼びます)。

いま、サイト構築はブログも含めたCMSや、ホームページビルダーなどのオーサリングソフトで制作するのが主流です。そこでは「テンプレート」が活躍します。かつてのホームページ制作の現場では、1つの「メニュー」が変更になると、すべてのHTMLファイルを書き直す必要がありましたが、テンプレートの登場で「一括変更」できるようになり生産性が飛躍的に向上しました。

一括管理の弊害

この便利さの代償でしょうか。

トップページに“トップページへ”というリンクがある

ことが珍しくなくなりました。そして件のサイトは特に顕著でした。

主にページの上部に配置されるサイト全体で共通するメニューを「グローバルナビゲーション」、コンテンツの左右どちらかに配置されるメニューを「サイドバー」、最下部を「フッター」とここでは定義します。先の洋品店のサイトでは、横並びメニューの左側、縦配置メニューの最上部といった、一番目立つ位置に配置されていたのが「トップページへ」だったのです。サイトのどこからでも「トップページ」へ遷移できるメリットはあるでしょうが、トップページで「トップページへ」を目立たせる必要はありません。

動かないコンテンツ

数字で検証するために、わたしが管理しているいくつかのサイトをチェックすると、サイトによってバラツキはありますがトップページで「トップページへ」が一定数クリックされています。

最上部や左肩の部分に社名ロゴなどを配置し、そのリンクを「トップページへ」とするのは、現在のトレンドですが、そこも含めた「トップページ」から「トップページへ」のクリック率をみると、もっとも高いサイトでは50%を超えていました。しかも「トップページからトップページ」への移動から、そのまま離脱(サイトを離れること)している数は少なくありません。そこでこんな仮説が浮かびます。

“トップページへ”をクリックしたことにより、そのまま帰る客がいるのではないか

トップページで「トップページへ」をクリックしても表示されるコンテンツが変わるコトはありません。そのために画面の変化がないことを「動かない」とあきらめて帰っている客がいるかもしれないということです。

数字で測る対策効果

そこでトップページのグローバルナビゲーションから「トップページへ」を抹消します。社名ロゴからのトップページへのリンクも外します。Google Analyticsの「ページ解析」を見てみると、ページの下部にスクロールされている割合が極端に少なかったので、ノートパソコンの画面(解像度)でも「1ページ」で表示される場所に「見てほしいページの案内」を配置します。

設置から2週間後にチェックすると、70%台と超高止まりしていた直帰率はぴったり10%下がり、「見てほしいページの案内」へのクリック率は22%と、5人に1人は誘導できておりまずまずの数字です。同一条件ではないので「参考値」に過ぎませんが、他のサイトでも近い数字の改善を確認しています。直帰率が高いトップページを持つサイトなら一考の価値がある取り組みです。

「見てほしいページへの案内」の有無によるA/Bテストの結果によっては、今回の仮説を「法則」に格上げできるのですが、トップページを探している人を迷わせてしまうことも考えられます。クライアントのサイトでの実験には限界もあり、迷惑のかからない範囲で追試をしているところです。

昼間から酒を飲む一族

サイト内で共通のグローバルナビゲーションやサイドメニューを設置して「統一感」を与えることはWeb制作者にとって「常識」のようになっています。

しかしいま、Webサイトへの入り口はさまざまです。そもそも到着した場所が、トップページであるかどうかを訪問者は知りません。そして「トップページへ」をクリックして「動かない」と勘違いし、直帰する客を取りこぼしているとしたらもったいない話です。

多くのグルメサイトの「常識」では、利用者は地域や料理で選ぶとなっているようです。あるいは飲み放題や食べ放題かもしれません。しかし、われわれ親族の最大の条件は、

日曜日の11時から酒が飲める店

でした。一族の長が、隙あらばビールを飲み始める人間で、早い時間から腰を落ち着けて酒を飲める店を探すのに難儀したのです。オフィス街は日曜祝日が定休日の店も多く、銀座などの繁華街でも11時30分開店が主流です。つまり「開始時間」で検索する客がいないというのがグルメサイトの「常識」のようです。しかし、結構ありますよ。午後4時から飲み始める会社とか。

今回のポイント

常識で見落とすこともある

トップページからトップページは不要……かも?

宮脇睦

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。

制作、営業の双方の現場を知ることからウェブとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供し、一業種一社、制作案件は足立区内のみという営業施策をとっている。本業の傍らメールマガジン「マスコミでは言えないこと」を発行。好評を博す。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)、『月刊宝島』などに寄稿。

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