その目的によって差はあれど、ほとんどのWebサイトは、安定期を経て、必ず衰退期が訪れる。今回は、衰退期をどうやって見極めるか、そしてWeb担当者としてどのような思考や心構えを持つべきかを解説する。
そして、これまでの連載の締めとして、「Webビジネスの立ち上げ期から衰退期までの心得10か条」をまとめたので参考にしてほしい。
衰退期を見極めるには、Webサイトの「ROI」(投資対効果)が重要になる。すでに自社Webサイトの獲得単価を試算するなど、ROIの数値を出している方は、ぜひそれを踏まえて読み進めてほしい。ROIの試算や把握がまだできていない、あるいはよくわからないようであれば、先に、連載第2回「ヒラのWeb担当でも経営者と共有できる“ものさし”をもつべし <サイト立ち上げ期 その2>」に目を通しておけば、理解しやすいだろう。
どうやって判断する? Webサイトの衰退期
Web担当者として、いろんなWebサイトを管理していると、こんな風に悩むことはないだろうか?
このサイト、たいしてパフォーマンスも良くないし、手間もかかっている。
たぶん、どこかのタイミングで閉じたほうが良い気がするけど、これまでの経緯もあるし、どうしよう……。
立ち上げ期や成長期は外部パートナーも含め周囲の協力を得やすいが、成長が止まってしまったサイト、パフォーマンスがそれほどよくないサイトに協力してもらうことは難しいだろう。そういうときは、明確な判断基準をもって、サイトを閉じるべきだ。
では、「Webサイトが衰退期にあるという明確な判断基準」とは、なんだろうか? それは、基本的に次の2つである
- WebサイトのROI
- 「大きい棚卸し」の視点
(1)パフォーマンスで考える「WebサイトのROI」からの衰退期判断
これは至ってシンプルである。下図のようなWebサイトのパフォーマンスをプロットした図を作成すれば、判断基準が明確になりやすい。
ビジネス貢献度が低いエリアが増えてきたようならば、そのサイトは衰退期にあると判断できるだろう。
この図を作成するときに、数値化するための軸は、次の2つとなる。
貢献度 ―― 年間でかけたコストに対する、売り上げ(利益)・自社のKPIの計上度合い
難易度 ―― そのサイトに対する、手間のかかり方、事業上の重要度などの相対評価
基本的にはこの2つを数値化していくのだが、2の相対評価については経営層との共通のものさしとして使うことを前提に数値化を組み立てることが重要だ。決してWeb担当者としての視点だけで評価してはならない。
(2)自社のWebサイトすべての最適化を思考する
「大きい棚卸し」からの衰退期判断
いろんな事業部が作成したWebサイトが多数あり、会社としてガバナンスが効いていない状況や、重複したコンテンツがあっちのサイトにもこっちのサイトにも無意味に点在している状況は、十分にあり得る。
各サイトのパフォーマンスは悪くないが、数値に表れにくい手間暇がかかっているような場合は、大きな棚卸しとして、全体の最適化を検討し、閉じるべきWebサイトを取捨選択すべきだ。そのときは、「ユーザー視点」あるいは「社内における合理性」で判断することとなる。
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ユーザー視点で決める
立ち上げ期から一貫して、ユーザー視点は意識し続けているはずだ。運営者側の都合で変更できないサイトは、ユーザーが離れるだけでなく、声にならない不評・不満が溜まっている可能性もある。
たとえば、サイトの部分改変を重ねているうちに、問い合わせフォームの入力画面から何故か別のサイトに誘導されてしまうケースもある。
サイトの状態は、「回遊率が高い」「離脱率が低い」といったアクセス解析の数値だけで判断するのではなく、ユーザー視点で実際に使ってみて、判断すべきである。
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社内における合理性で決める
コンテンツや役割が重複しているサイトが複数あったり、コンテンツ自体が古い・時代にそぐわないサイトだったり、会社の事業構造上や主力じゃなくなったサイトだったり。そうしたサイトは、閉じることを検討するべきだろう。
こうした大きな棚卸しは、どのようなタイミングで行うのがいいのだろうか。
少なくとも、前任者から引き継いだときには、必ず最初にすべきである。ROIなど数値データは引き継げるが、大きな棚卸しを行うことによって見えてくるものもあるからだ。
また定期的なチェックとして、(管理するWebサイトの数や企業の事業戦略や成長スピードにもよって変わるが)最低でも年1回は実施すべきだろう。
このように衰退期のサイト・閉じるべきサイトを明確にすることで、無駄な労力やコストは削減できる。筆者の経験上、2割~3割はコストダウンできるはずだ。
ただし「明らかに無駄なサイトを閉じ、予算を浮かせるだけ」ではビジネスマンとは言えないし、会社からもソコソコにしか評価されないだろう。
「運営者側の都合で変更できない」という論理は通用しないと述べたが、社内政治上、手を出せないサイトや、必要悪と割り切らざるを得ないサイトもあるかもしれない。そういったサイトはどう扱うべきだろうか。
ビジネスマンであるからには、そんな事由を飲み込みつつも、経営者や上司などには論理的な説明をすべきである。物わかりの良いYesマンになるのは避けるべきだし、「政治は嫌い」と言って避けるのも駄目だ。Web担当者として、あるべき姿を明確にした上で、最終判断は経営者・上司に委ねるべきだ。
- 閉鎖するだけでは終わらせない、使える予算の最低2割は投資を意識せよ
- 「2割のチャレンジコスト」を会社に認めさせるには
- Webサイトは必ず衰退期を迎える
- おさらい:Webビジネスの立ち上げ期から衰退期までの心得10か条
閉鎖するだけでは終わらせない、
使える予算の最低2割は投資を意識せよ
これまでの連載でも言ってきたが、「使える予算の2割は投資に回すべき」である。手塩にかけたWebサイトも数年で技術的には陳腐化してしまう。技術革新やプラットフォームの変化が速いインターネットにおいては、先進的なことに対して、コツコツと投資的なトライ、すなわち「チャレンジコスト」をかけるべきだ。
そして、予算は限られているので、ストイックにコスト削減を日々重ねながら、このチャレンジコストを捻出するのだ。
インターネット業界にはバズワードが多い。これまで「そんなバズワードに惑わされな」と述べてきたが、無視したり、毛嫌いしたりするだけでは意味がない。今であれば、ソーシャルメディアを使う、新しいタイプの広告手法を使ってみる、新しいデバイスに対応したコンテンツを作ってみるなどのチャレンジをして、その結果のパフォーマンスを知っておくのも重要だ。
こういうチャレンジによって、衰退期と思っていたWebサイトを再度成長させる可能性が生まれたり、次に立ち上げるWebサイトの取るべき戦略が発見できたりするのだ。
事例
ある大手メーカーが、主力サイトのなかでロイヤルカスタマーを囲い込むための会員向けコンテンツを運営していた。CRMシステムを組み込んだメールマガジンを発行しており、その会員は8万人。メールマガジンのコンテンツは、キャンペーンの告知や会員向けコンテンツの提供だった。
しかしメーカーだという立場もあって、会員だけに商品を売ることもままならず、加えて、さもすると情報漏えいなどで問題になりかねない個人情報を持ってしまったため、セキュリティの高いシステムの維持コストが上昇傾向にあり、8万人の会員を維持し続けるための投資対効果は非効率になっていた。
一方、新たな商品販促キャンペーン実施の際に、ソーシャルメディアを部分的に活用してみたところ、ロイヤルカスタマーとつながる端緒が見つかった。このメーカーは、主力サイト内にあった囲い込み用の会員向けコンテンツの閉鎖を検討し始めている。
「2割のチャレンジコスト」を会社に認めさせるには
本連載を読んでいただいている皆さまであれば、仕事にとどまらず、個人レベルでも新しい技術や手法の研究をされているのではないだろうか。今なら、FacebookやTwitterを個人で使ってみたり、スマートフォンやタブレットPCなどを自腹で購入し使っていたりする人も多いだろう。
しかし、ここで言う「2割のチャレンジコスト」とは、会社が負担(=投資)するように認めさせるべきものである。個人と会社の線引きを明確にすることによって、2割のチャレンジを有効に使う見極め力がつくし、残りの8割の予算も想定したROIに対してより適正に運用するようになるからだ。
予算編成時などに、こういう考え方を経営層に訴えることは重要だし、仮に期中であっても今ある予算を見直し、2割のチャレンジコストを生み出す努力をすべきである。
チャレンジコストを使って2年前からソーシャルメディアを使ってきたWeb担当者と、今年初めて使ってみるWeb担当者とでは、一概には言えないが、どちらが成長する確率が高いかは明らかだろう。
Webサイトは必ず衰退期を迎える
昨今、10年続くWebサイトはほとんどない。そして10年前に使っていたWebサービスが、今もまったく同じ形であり続けることはあり得ない。ポータルサイトも、何かに特化したWebサイトも、コーポレートサイトも、新しいチャレンジによって進化させながら、効果の低い部分を自ら計画して“陳腐化”させ、サイト全体を“新陳代謝”させていくことが重要なのだ。
立ち上げ期や成長期のサイトを運用しながら、衰退期のサイトを洗い出し、閉鎖する段取りを計画し、経営層に了解を取り付け、実際に閉鎖をする一連の業務は、ときに気分が滅入ることもあるだろう。しかし、サイトを常に効果的なものに更新していくためには、このプロセスが欠かせない。
Webサイトを向上させる前向きな仕事として取り組むために、今回の締めくくりとして次のメッセージをお伝えしたい。
狂気。それは、同じことを繰り返し行い、違う結果を予期すること。
アルベルト・アインシュタイン
- 第1条 自分でやり切る覚悟を持て。
- 第2条 ユーザーとしての感覚を研ぎ澄ませ。
- 第3条 ターゲットに刺さるものを刺さる場所に送り込め。
- 第4条 数ではなく、率で考えろ。
- 第5条 CACAサイクルで進めろ。PDCAでは遅すぎる。
- 第6条 経営者と同じものさしを持て。PL/BSを知れ。
- 第7条 投資なくして成長なし。予算の2割を必ず投資に回せ。
- 第8条 Webの資産価値を上げることに徹しろ。データドリブンな体質になれ。
- 第9条 作業者になるな。外部を積極的に活用しろ。
- 第10条 自ら計画し、Webサイトを常に“新陳代謝”せよ。
本連載では、「立ち上げ期」から「衰退期」まで、それぞれのフェーズでのWeb担当者の心構えを解説してきた。全記事の一覧を示しておくので、改めて読むことで、あなたの「プロのビジネスマンとしてのWeb担当者」の考え方を向上させていってほしい。
- 新規にWebサイトを立ち上げるときの心構えと準備 <サイト立ち上げ期 その1>
- ヒラのWeb担当でも経営者と共有できる“ものさし”をもつべし <サイト立ち上げ期 その2>
- 成長期のWeb事業をさらにドライブするにはPL/BSを活用する <成長期 その1>
- 「Webの資産価値」を上げる成長期の仕事と「ハブ・スポークモデル」のシステム <成長期 その2>
- “マッチョWeb担当者”になり、外部パートナーを活用せよ <成長期 その3>
- Web成長期に挑んだ担当者インタビュー: 劇団四季「ウェブプラン2010」とプロジェクトの“バイブル”
- 「ウチのWebサイト、もうダメかも」と思ったときに取るべき対策と心構え<安定期~衰退期>(この記事)
- 記事種別:解説/ノウハウ
- 内容カテゴリ:Web担当者/仕事
- コーナー:Web担当者たるもの、かくあるべし 「Web担道」秘伝の書
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オリジナル記事:「ウチのWebサイト、もうダメかも」と思ったときに取るべき対策と心構え<安定期~衰退期> [Web担当者たるもの、かくあるべし 「Web担道」秘伝の書] | Web担当者Forum
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