※15:10修正 「キヤノンWebサイト」のレポート内「4つのコンテンツ分類」に関して誤りがありましたので修正いたしました。
企業ウェブ・グランプリ事務局が2011年に開催した、「第5回企業ウェブ・グランプリ」の部門グランプリ受賞企業が各サイトの取り組みを発表する「第5回企業ウェブ・グランプリ フォーラム」が3月29日、東京のキヤノンマーケティングジャパン内で開催された。この記事では、計14サイトのWeb担当者らが語った、サイトの目的や成果、今後の改善案、受賞の反響など、フォーラムの様子を紹介する。
「企業ウェブ・グランプリ」は、企業Webサイトの担当者が互いのサイトを評価する、企業Webサイトのアカデミー賞として2007年にスタート。昨年の応募数は43社122サイトに上り、年々規模を拡大している。
- 「第5回企業ウェブ・グランプリ」ベストグランプリ発表452名のWeb担当者が互いの企業サイトを評価
- ソニー、ライオン、IBMなどのWeb担当者が明かすサイト運営ノウハウ「企業ウェブ・グランプリフォーラム」レポート(第4回)
- 「キヤノンWebサイト」(キヤノンマーケティングジャパン株式会社)
- 「リコー早分かり」(株式会社リコー)
- 「富士フイルム・グローバルサイト(スマートフォン版)」(富士フイルム株式会社)
- 「サントリーチャンネル」(サントリーホールディングス株式会社)
- 「日本マイクロソフト ホームページ」(日本マイクロソフト株式会社)
- 「火で炊くコンロでごはん生活」(大阪ガス株式会社)
- 「厨BO!SHIODOME」(東京ガス株式会社)
- 「どんぐりプロジェクト」(東京ガス株式会社)
- 「制御機器入門」(パナソニック電工株式会社)
- 「THE PLANET ZERO」(日産自動車株式会社)
- 「日産自動車グローバルサイト」(日産自動車株式会社)
- 「JAL公式Facebookページ」(日本航空株式会社)
- 「ブラパン(みんなの下着白書)」(株式会社ワコール)
- 「三菱電機サイエンスサイト DSPACE」(三菱電機株式会社)
組織の作り方でWebサイト運用の効率が大きく変わる
ベストグランプリ/ガバナンス&ユーザビリティ部門グランプリ
「キヤノンWebサイト」キヤノンマーケティングジャパン株式会社
はじめに、昨年初参加でガバナンス&ユーザビリティ部門グランプリを受賞し、第5回のベストグランプリに輝いた「キヤノンWebサイト」のガバナンスを中心とした取り組みが、キヤノンマーケティングジャパン コミュニケーション本部 ウェブマネジメントセンター長の増井達巳氏によって紹介された。
「キヤノンWebサイト」は、キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)とキヤノンが共同運営するサイト。コミュニケーション/コンテンツ/システムという3つのマスターが職種として存在し、彼らが三位一体のWebマスターとして管理しているのがキヤノンMJの組織体制だ。1人ひとりが各分野のプロであり、それぞれが重なる領域があってこそ、良い仕事ができると増井氏は話す。
続いて増井氏は、部門賞を受賞したガバナンスについて、顧客主語と企業主語のギャップを埋めるものだと説明した。キヤノンMJでは、全社的に顧客主語であることを打ち出している。しかし、コンテンツオーナーとして顧客主語を意識できていても、事業部門からはトップページの目立つ位置に情報を掲載してほしいなど、企業主語の依頼が届きがちだ。「取り締まるのではなく、顧客主語を実践してお客様に最大の価値を提供し、企業としてお客様から価値をいただくためにガバナンスがある。正しい水先案内をするのがウェブのガバナンスという仕事であり、そのためには知識やコミュニケーション能力が必要になる
」(増井氏)
また、実際に「キヤノンWebサイト」でコンテンツを掲載するまでのワークフローも紹介された。コンテンツの作成は、社内システム内で掲載申請が行えるようになっており、常時250ほどのジョブが動いているという。これらのワークフローは、プロジェクトマネジメントの知識体系であるPMBOKを用いてフローチャートを書き、システムへと落とし込んだ。
システム内では、プロジェクトの状況について開発、校了、公開状態などのステータスを確認でき、変更があればメールなどで共有される仕組みだ。ポリシー体系や社内規定も整備され、担当ごとの責任範囲も明確にされているため、ワークフローの中で責任範囲が不明慮になったとしてもすぐに確認できる。ルールに関するドキュメントは、項目ごとに分類されており、設計部門であれば「設計ルールセット」を、納品チェックの際には「検証・監査」ルールを見るなど、担当部署が必要な情報を簡単に得られるようになっている。
設計ルールには、ユーザビリティやアクセシビリティにどのように対応するのか(JIS準拠の仕様、レベルなど)もまとめられている。ただし、コンテンツによってどこまで対応するのかは異なるため、Web標準準拠が必須の「インフォメーション」と「レセプション」、準拠レベルの異なる「プロモーション」と「リレーション」の4つにコンテンツを分類している。まったく新しい新規サイトを作る場合でも、これらのルールセットを守ることで、ユーザビリティ・アクセシビリティを担保できると増井氏は話した。
最後に増井氏は、「ウェブはコミュニケーションツールなので、いつも横にはルールセットを置くべき
」だと話す。「Web担当者、制作パートナー、コンテンツオーナーの責任が不明慮でルールセットがないと、大規模リニューアルができなかったり、大きなコストがかかることになる。これまでは、多少整理されていなくてもある程度はよかったが、今はすべての情報がウェブサイトにある。サイトの価値低下は企業価値の低下につながるため、ガバナンスが大事である
」(増井氏)
ベストグランプリとして、サイトの基礎体力の部分を評価してもらいメンバー全員で喜びを分かち合ったと話す増井氏は、最後に、アクセシビリティJIS規格のシングルA等級対応拡大のためルールセットの改定を行っていると、2011年から2012年への取り組みを紹介し講演を終えた。
情報を整理して会社についてより詳しく知ってもらう
企業情報・IR部門グランプリ
「リコー早分かり」(株式会社リコー)
続いて、部門グランプリの発表へと移る。はじめに登壇したのは初参加でIR部門グランプリを獲得したリコーだ。コーポレートコミュニケーションセンター 広報室で社内外に情報発信する役割を担う梅田尚幸氏が、制作のプロではないが、制作の背景など苦労した点を話したいと「リコー早分かり」の取り組みを紹介した。
「リコー早分かり」は、5つのカテゴリに分けられたコンテンツを通じて、リコーという会社を知ってもらうための情報サイト。これまで、リコーでは経営戦略・コミュニケーション戦略に基づき、社内外のステークホルダーへと情報提供を行ってきた。しかし、ウェブサイトの情報が断片的でコンテンツ制作につなげられていない、老舗企業だけに新しい活動が少ないなどの課題を感じていたという。また、定期的に行う調査では、リコーの社名は知っていても活動内容は知らないという意見があった。
そこで、「リコー早分かり」では断片的な情報をまとめて発信し、興味関心をもつステークホルダーの裾野を広げることを狙ったと、梅田氏は話す。ステークホルダーとは、株の購入を検討する人、リコーの存在は知っていても詳細は知らない人、将来リコーグループで働く可能性のある人などで、「情報を取りに来たお客様に、別の場所にも立ち寄ってもらい、満足して帰ってもらうことが大事ではないか。そこがリコー早分かりの一番のポイント
」だと梅田氏は説明した。
制作で一番苦労したのは、5つのカテゴリに情報を絞ることだった。事業部から、あれもこれもと情報が届くのは嬉しいことだが、過剰な要求はやんわりと断らなくてはならないと、梅田氏は経験を伝えた。また、副次的な効果として、複写機以外の非主流事業部が協力的だったこと、社内と制作会社で情報共有できるツールができたこと、メンバーのモチベーションが上がったことなどが紹介された。
グローバル展開を考慮したスマートフォン対応を実施
グローバルサイト部門グランプリ
「富士フイルム・グローバルサイト(スマートフォン版)」
(富士フイルム株式会社)
グローバルサイト部門グランプリを受賞した、「富士フイルム・グローバルサイト(スマートフォン版)」については、グローバル戦略やグローバルサイト運営、スマートフォン対応などを行う、富士フイルム e戦略推進室の宮本あすか氏から、スマートフォン対応の経緯が説明された。
宮本氏はスマートフォン対応の背景として、国内のスマートフォン普及拡大はもちろんだが、海外はさらに普及が早く、各国の現地法人、特に英国では2011年1月までの1年間でスマートフォンアクセスが278%増加していることを説明。米国やカナダでも同様にスマートフォンやタブレットのアクセスが増加しており、対応してほしいとの声が上がっていたという。グローバルサイトのアクセスも増加傾向にあった。
スマートフォンの対応方針では、現在あるPCサイトのHTMLソースを利用し、最適化を進めることにした。具体的な対応策としては、CSSの組み換えが検討されが、初期工数が大きく自由度が少ないこと、レスポンスが遅いといった問題があった。グローバルサイトは、2009年5月に作成された最新のデザインガイドラインをもとにマルチデバイス対応を想定して制作されていたが、PCの利用環境を想定して実装されていたため、スマートフォンでは回線速度や処理速度に制約が生じてしまうのだ。
そこで、HTMLには手をほとんど加えずに、一部のJavaScriptやCSS、動画や共有ファイルをスマートフォン用に最適化し、表示最適化を実現していった。スマートフォンでは軽い画像を読み込ませたり、容量の大きい画像を軽くしたりした。こうした手法を選択した理由について、宮本氏は「HTMLに手を加える範囲が小さくできた。グローバルサイト対応後に、同じテンプレートからつくられた現地法人でも、短時間かつ低コストで対応可能ということを考えて選択した
」と説明した。
今回でスマートフォン対応したのは、トップページ、カテゴリページ、デジカメコンテンツという1つのまとまり。トップページから順次対応したのでは、トップから下層のページに移動したり、検索エンジンから直接下層ページに来た人がPCページにアクセスして離脱してしまうと考えたからだ。優先順位はアクセス解析によって決められており、スマートフォンに対応したデジカメページは、8月の対応前と比べ12月には1.7倍にまでPV数が増加し、PCよりも多いという。
最後に宮本氏は、「いかにPCと同じ情報と世界観を見せるのか、限られた画面、操作性、速度に苦労した。シミュレータにも限界があり、実機での確認は必須です。手間は掛かりますが、両手にスマートフォンを持って確認することで、良い結果が得られた
」と経験を伝え、講演を終えた。
動画コンテンツを一元管理し、ブランド力を高める
デザイン&クリエイティブ部門グランプリ
「サントリーチャンネル」(サントリーホールディングス株式会社)
デザイン&クリエイティブ部門を受賞したのは、サントリーの自社動画やCMをまとめた「サントリーチャンネル」だ。サントリーホールディングス 広報部 デジタルコミュニケーション開発部課長代理の若林純氏は、「CMに対するお客様の問い合わせがあったことから、問い合わせを軽減する意味もあり、お客様センターと一緒に立ち上げました。当初はCMワールドとしていたサイトを、時代にあわせてリニューアルしたのがサントリーチャンネルです
」と、概要を説明した。
若林氏は「サントリーチャンネル」のリニューアルのポイントとして、3Mbps・HD対応による動画のハイクオリティ化、UIのイノベーション、関連動画・コンテンツへの回遊性の向上、HTML5やmp4を利用したマルチデバイス対応などを挙げた。ソーシャルメディアとも連携しているが、アルコールも扱うことから年齢認証機能を設けている。
リニューアルでは、裏側のシステム面も改善された。これまでは、宣伝部で管理するCM情報と、お客様センターのCM情報は別々のデータベースで二重管理されていたが、これらをワンソースで管理できるようにした。これにより、過去の情報が掲載され続けないように、掲載期間の厳密な管理が可能になった。動画はクラウドサービスを利用して配信することで、複数フォーマットを用意する必要がなくなったという。
サントリーチャンネルは、スマートフォン版も直感的に触れるように整備されている。テレビを見ながらスマートフォンで検索という行動もあることから、スマートフォンへの入り口を用意したことで、そこからブランドサイトへつなげる仕組みができたと、若林氏は最後に話した。
- 「日本マイクロソフト ホームページ」(日本マイクロソフト株式会社)
- 「火で炊くコンロでごはん生活」(大阪ガス株式会社)
- 「厨BO!SHIODOME」(東京ガス株式会社)
- 「どんぐりプロジェクト」(東京ガス株式会社)
- 「制御機器入門」(パナソニック電工株式会社)
ユーザーテストをもとにしたリニューアルで満足度を向上
テクニカルイノベーション部門グランプリ
「日本マイクロソフト ホームページ」(日本マイクロソフト株式会社)
初参加でテクニカルイノベーション部門を受賞したのは、フォーラム開催時点でバージョン16になるという「日本マイクロソフト ホームページ」だ。マイクロソフトのホームページができたのは1999年のころ。当時はco.jpの独自ドメイン名サイトを持っていたが、その後グローバルでデザインが統一されたと、日本マイクロソフト セントラルマーケティング本部 デジタル&イベントマーケティンググループ シニアマネジャーの浜野努氏はこれまでの歩みから説明した。
なお、グランプリエントリー当時のページは、個人と法人をイメージする人の写真を選択することでコンテンツを切り替えていたが、わかりづらいという意見があったことから変更している。こうしたデザイン変更は、本社から各国へデザイン統一が進められていると浜野氏は話す。
続いて浜野氏は、マイクロソフトがリニューアルする際の取り組みを紹介した。マイクロソフトではユーザビリティに力を入れており、大きなリニューアルでは必ずユーザーテストを行うという。さらにベータテストを実施し、アクセスしたユーザーの約5%にベータページを見せてアンケートを取り、リニューアルしたページの満足度が高いとわかったら、正式にリリースするという手順だ。現在のページは以前と比べて8ポイントほど満足度が向上したという。
サイト制作は本社をメインに、すべて社内リソースで行う。日本マイクロソフト全体のホームページは、正社員6名と派遣スタッフによって運営されており、Microsoft.comに関しては、社員1名と専任の派遣スタッフ2名で運営し、レポート/バナー作成、リンク変更などすべて対応していると、浜野氏は説明した。
サイトに掲載するバナーは、顧客を誘導できる貴重なアセットであることから、経営戦略上の優先度をもとに決められ、リクエストがあって何かを掲載することはないという。また、ステークホルダーが多岐にわたることから、すべての顧客にきちんと情報が出せるように、ターゲティングにも力を入れて開発されている。同社にとっては、利用しているOSやブラウザは重要なマーケティング項目であることから、OSやブラウザによってメッセージを自動的に変える機能も設けている。
今後の課題としては顧客満足度の向上が挙げられた。ホームページ上では毎日満足度調査を行っているが、グローバルで比較したとき、日本の満足度は低いという。「厳しい日本のお客様にも満足いただけるページをつくることが課題。サイトに来たお客様に目的の情報にたどり着いていただくことを使命としていますので、いかに目的を達成いただくかということ、弊社でディスカバラビリティと呼ばれている部分をこれからも良くしていきたい
」(浜野氏)
既婚女性をターゲットにガス炊飯の魅力を訴求
コンテンツ企画&ライティング(B2C)部門グランプリ
「火で炊くコンロでごはん生活」(大阪ガス株式会社)
コンテンツ企画&ライティング(B2C)部門を受賞したのは、2011年6月に公開された、ガス炊飯の体験情報サイト「火で炊くコンロでごはん生活」だ。サイトの全体の目的は、「電気炊飯器が登場し、炊飯の9割が電気で行われるようになったのが炊飯文化の歴史。ガスでご飯を炊くと美味しいというのを知ってもらうため、20~40代既婚女性ターゲットに、まずガス炊飯を体験してもらおうというもの
」だと、大阪ガス リビング開発部 PRチームの八木一平氏は説明した。
「火で炊くコンロでごはん生活」の特徴は、特別な調理器具を用意せず、家庭にある様々なお鍋でご飯を炊くための情報を提供している点だ。動画もメインコンテンツとして用意されている。また、極力自社名を出さないことも重要で、単に宣伝色をなくすだけでなく、協業への敷居を下げる効果もあるという。実際、「火で炊くコンロでごはん生活」を通じて機器メーカーとのコラボも実現された。
サイトオープンからさほど手を加えずに、月間2万のアクセス、トータルでは15万アクセスを突破し、ウェブだけでなくリアルイベントにも出展した。最後に八木氏は、今後の展開として、季節レシピの拡充、マイクロフォーマットの導入、フードインストラクターによる企画などを考えていることを話した。
ショールーム運営の実務に適した案内サイトを構築
商品・製品・サービス紹介部門グランプリ
「厨BO!SHIODOME」(東京ガス株式会社)
続く講演では、東京ガスが受賞した2つのサイトについて紹介された。1つ目は、商品・製品・サービス紹介部門グランプリを受賞した、飲食店やプロの料理人をターゲットにした体験型業務用厨房ショールーム「厨BO!SHIODOME」のウェブサイトだ。2010年10月にオープンした「厨BO!SHIODOME」は、従来と比較して約3倍の来場者数を見込む、新しいショールームの運営をスムーズに行うための方法として制作が検討されたと、東京ガス 広報部の山崎光恵氏は話す。
「厨BO!SHIODOME」の予約システムは、事前にどういった人が来るのか、様々な業種・職種の顧客からの申し込みに少ないスタッフで対応し、間違いなく対応できることを目標に構築されたという。予約受付担当は4名、1日6組の来場者を案内することが想定されている。現在の見学は月に約60件、2割の見学者はウェブで申し込むという。
制作のポイントとして、山崎氏は「ショールーム誘引への動線を強調したレイアウト」「コンテンツはわかりやすく」「2スクロール以内の表示に押さえる(標準閲覧環境で)」といった点を挙げた。Facebookページも開設している。海外の経営者はFacebookを利用していることが多く、コミュニケーションするのに効果的だという。
最後に山崎氏は、昨年の企業ウェブ・グランプリの審査員コメントを参考に「専門のみなさまから情報をいただいて改善を行いました」と、改善点を説明した。セミナー情報から詳細へのリンクがないという指摘には、日付から詳細リンクへと飛べるようにして解決し、ページ下の余白がもったいないという意見から、イベント・セミナー申し込みの導線がファーストビューで見えるようにした。視認性を高めるため、文字サイズも調整している。今後はさらに、予約をより簡単に行えるようにすること、古いセミナー情報がリンクとして残っている点などの課題を解決したいという。
小学生にもわかりやすく、臨場感の伝わる表現で構築
地球環境とエコロジー部門グランプリ
「どんぐりプロジェクト」(東京ガス株式会社)
続いて、東京ガス 広報部 社会文化センター主任の小町圭子氏から、地球環境とエコロジー部門グランプリの「どんぐりプロジェクト」が紹介された。
「どんぐりプロジェクト」は、環境保全と環境プログラムを通じて、環境を守ることの大切さを知ってもらうためのサイトだ。より多くの人にプロジェクト参加してもらうのが一番の目的で、参加者に振り返ってもらうために活用してもらいたいと、小町氏は話す。主な活動は、間伐のデモンストレーションや苗木の植樹体験を行う「森づくり」、動物や森の素材と触れ合う「自然体験プログラム」などで、専門家と一緒に行う森でしか体験できないプログラムが人気だという。
続いて、小町氏は2011年リニューアルした際のポイントとして、複雑だったサイト構成をシンプルにし、告知と活動報告をメインに情報を絞ったこと、来た人にすぐスクールがあるとわかるように告知したこと、対象が小学生のため、わかりやすく、かつ森の情景が思い浮かぶような臨場感のある表現に画面のつくりや文章表現を工夫したこと、などを明かした。こうしたリニューアル作業は、「どんぐりプロジェクト」を企画する東京ガスのグループ会社に依頼したため、非常にスムーズだったという。
審査員からは、小学生と家族が理解できるプロジェクトの趣旨説明があった方がよい、間伐、植樹などの専門用語をわかりやすくした方がよい、といった指摘があり、改善予定だという。
お客様の購買活動に役立つ業務支援サイトへ
コンテンツ企画&ライティング(B2B)部門グランプリ
「制御機器入門」(パナソニック電工株式会社)
コンテンツ企画&ライティング(B2B)部門グランプリを受賞したのは、パナソニック電工(2012年1月よりパナソニック)の「制御機器入門」だ。電子回路設計や研究開発者の知識スキルサポートを行うという同サイトについて、パナソニック電工 制御機器ビジネスユニット マーケティンググループ 制御機器サイトウェブマスターの岩見泰志氏が説明した。
「制御機器入門」は、制御機器サイト内のいちコンテンツとして、これから制御機器に関わっていく人に向け、知識・スキルサポートを行い、今後興味を持ってもらい、将来の有料顧客になってもらうことを目的にしていると岩見氏は説明した。コンテンツは新人営業向け資料やカタログなどから流用しており、基本的にコストはかけない方針だという。一方で、岩見氏は本音として「買って使っていただくことで好感が生まれると思っている
」とも話す。「購買関与者の方すべてが制御機器について知っているわけではなく、決裁者も設計から来た方とは限らない。つまりは、そうした方たちに買ってもらうためのサイト
」(岩見氏)
サイトは“入門”と名付けられているが、BtoBのビジネスサイトとして、販売促進、製品採用率向上に寄与するサイトとするのが目的だ。コンテンツは入門、初級、中級とする方法もあるが、お客様の仕事に役立つ、購買活動に使ってもらえる、オンデマンドの業務支援サイトを目指したいと岩見氏は話す。
続いて岩見氏は、サイトの前提として重要なのが、実際の購買行動がどうなっているのかを知ることだと話し、2011年にWeb広告研究会で行ったBtoBの購買プロセスの調査結果を示した。情報収集から始まり、要件定義、業者選定など、それぞれの購買プロセスでどのような行動を行っているか、行動特性を追いながら、購買につなげることを考えているという。また、会員へのアンケートを行い、購買者の行動から逆算して重要なプロセスを分析することもしているという。
最後に岩見氏は、あくまで個人的な考えだとしたうえで、「制御機器入門は、いわゆる商品軸のサイト構成になっているが、仕事軸をベースにした業務支援を目指して進めたいと考えている。ただし、実作業は若手にまかせているため、実際にそうなるかはわからない。彼らにはコンテンツ、機能、仕組みを、いちから考えてもらいたい。何か問題があれば、担当者が怒られながら直して育つようにしている。そうすることで、将来サイトの在り方が変わったとしても対応できる
」と、グランプリ審査員からの指摘を若手社員がどのように改善していくのか見守っていきたいと話した。
- 「THE PLANET ZERO」(日産自動車株式会社)
- 「日産自動車グローバルサイト」(日産自動車株式会社)
- 「JAL公式Facebookページ」(日本航空株式会社)
- 「ブラパン(みんなの下着白書)」(株式会社ワコール)
- 「三菱電機サイエンスサイト DSPACE」(三菱電機株式会社)
遊びを通じて広く多くの人に学んでもらう
コンテンツ企画&ライティング(B2C)部門グランプリ
「THE PLANET ZERO」(日産自動車株式会社)
日産自動車からも、2つの部門グランプリサイトが紹介された。コンテンツ企画&ライティング(B2C)部門グランプリの「THE PLANET ZERO」は、遊びを通じてエネルギーや環境問題について学んでもらう、「Learning can be fun」をコンセプトとした子供向けのサイトだ。近年はエコカーの人気が高まっているが、「電気自動車を売る前に、ゼロエミッション(CO2排出量ゼロ)はどういう意味なのか、電気自動車の良いところはどこなのか、広く多くの方に理解してもらう活動が重要
」だと、日産自動車 ゼロエミッション事業本部の澤田理代氏はサイトの目的を話す。
ターゲットを小学生から中学生の子供向けとした理由については、将来の顧客であるのと同時に、環境意識が高く、充電に抵抗がないことから、電気自動車の価値観を受け入れてもらいやすいことが挙げられた。こうした知識を子供から親へと伝えてもらいたい、そうした思いもあるという。
コンセプトに「遊びながら学ぶ」とあるように、「THE PLANET ZERO」ではFlash上でキャラクタを動かしながら、様々なコンテンツを体験していく。ムービーシアターでは、電気自動車などに関係した10種類ほどのアニメを見ることが可能で、さらに詳しい情報を学ぶこともできる。「電気自動車や太陽光発電をキャラクタ化して、より親しみをもってもらう。日産では珍しい活動として海外メディアでも紹介され、車以外の分野でこうしたサイトや現象をつくれたのは珍しいと思う
」(澤田氏)
最後に澤田氏は、さらにいろいろな言語で見られるように活動を広げて行きたいと、今後の展開を話し講演を終えた。
社内スタッフによる取材陣が情報を発信
コンセプト&アーキテクト部門グランプリ
「日産自動車グローバルサイト」(日産自動車株式会社)
コンセプト&アーキテクト部門を受賞した「日産自動車グローバルサイト」については、2011年9月に新設された組織「グローバルメディアセンター」の活動とともに、日産自動車 グローバルメディアセンター ウェブマスターの藤田憲治氏から説明された。設立経緯については、日産のブログに詳細動画があるのでそちらも参照してもらいたい。
グローバルメディアセンターには、ライター、ビデオグラファー、フォトグラファー、ウェブ担当、ソーシャルメディア担当など、10名ほどのスタッフが在籍している。スタッフは、組織ができるまでは一般のジャーナリストとして活躍しており、社外に情報発信する役割を担うという。
藤田氏は、グローバルサイトに求められる機能として、グローバルサイトに来た人を導く「ハブ機能」、製品・企業・車についてのコンテンツ「DB機能」、そして「最新ニュース」を挙げた。2012年3月、5月、8月とリニューアルしてきたが、今まで以上にニュースに力を入れていると藤田氏が説明するように、トップページのデザインは、一般的なコーポレートサイトよりも、メディアサイトに近いのが特徴だ。
「今まではニュースリリースだけだったものを、社内スタッフの取材レポートやブログによって伝えている。これまで、動画ニュースを外注して作るというのは結構大変だったが、ライターとカメラマンを連れて取材し、自社で動画を作れるようになったことは大きい。メディアセンターを立ち上げたことで、年間100本とか作れるようになった
」(藤田氏)
最後に、今後の取り組みとして藤田氏は、日本のチームだけですべての情報をカバーすることは難しいため、日米欧州の3拠点でニュースを共有し、さらに情報量やエリアを拡大していくことを話した。また、今期はニュースにより過ぎていたため、情報を知りたいといった人にも満足してもらえるように改善したいとした。
社員が実名で情報発信することで生まれる共感
ソーシャルネットワーク部門グランプリ
「JAL公式Facebookページ」(日本航空株式会社)
ソーシャルネットワーク部門を受賞した日本航空(JAL)からは、Facebookの「JAL公式Facebookページ」をどのように運用し、顧客にどのような情報を伝えようとしているのか、日本航空 マーケティング本部企画推進部 兼 Facebookチームの秋山奈央氏から説明された。旅だけでなく毎日ホームページに来てもらえる「旅と暮らしのバリューWeb」がJALのウェブサイトのコンセプトだ。
JALがFacebookを始めた経緯は、同社の取り組みと大きく関係している。2010年1月に経営破綻を経験したJALだが、当時聞こえてきたのが、顔が見えない、官僚的、もうJALには乗らないといった声だったと、秋山氏は振り返る。毀損したブランドイメージを社員が感じており、ブランドの再構築が課題だった。ブランドイメージ回復のためには、顧客へと歩み寄った双方向コミュニケーションが必要だと、様々なツールの中から選択されたのがFacebookだ。
Facebookの導入プロジェクトチームが立ち上げられたのは2011年1月のこと。JALとして初のソーシャルメディア活用ということもあり、炎上リスクなど、社内からはネガティブな反応もあったが、ガイドラインや緊急連絡網などの整備を行いながら、同年11月に「JAL公式Facebookページ」はオープンした。
運用するうえで心がけたのは、普段利用する人に共感してもらうために「社員が自ら仕事をする姿を発信すること
」だと秋山氏は話す。Facebookのコミュニケーションを通じて新生ブランドの浸透を図り、ファンから友人へと共感の連鎖を生み、新しい顧客との関係づくりに取り組みたいと考えた。「JALに遠い方にアテンションするよりも、まずJALに近い方に共感を得ていただき、そこから、JALを選んでいただくことにつながればよいと思います
」(秋山氏)
現在の運営は6部署が共同で行っており、毎週の会議で決めたものをチームでまとめ、1日に1~2回投稿するという体制だ。コメントには投稿担当部署で対応する。社員が実名で自身の言葉で伝えるというのも、新生JALとしての顔を見せるために、運営ルールとして決められている。
具体的な運営ノウハウとして、秋山氏は共感を得るための3つの工夫を紹介した。1つは前述のとおり「顔が見える」こと、残り2つは「リアルタイム性」と「オリジナルコンテンツ」だ。たとえば、機内食のエア吉野家を客室乗務員が制服を着て紹介した記事は、5000いいね!が付いて好評だ。他にも、JALホノルルマラソン2011の参加直前の意気込みを発信したところ、深夜ながら多くの人が閲覧した。オリジナルコンテンツという点では、「普段お客様と接しているコミュニケーションをやってください」という方針でスタッフに投稿してもらっていると話した。
運営開始から1年が過ぎ、「JAL公式Facebookページ」のファンは4月時点で50万人を超え、1000以上のいいね!が付く投稿も珍しくない。「お客様のコメントを得たことによって、JALが多くのファンに支えられていることを知った。その期待に応えなければならないと改めて実感した
」(秋山氏)。ファンとの交流だけでなく、社内広報的に社員と新生JALの意思共有ができているのではないかと秋山氏は話す。
最後に秋山氏は、今度の課題として、新生JALの姿を引き続き発信して、浸透・深化を進めながらファンと会話すること、ファン同士の交流やアプリ・キャンペーンなどによるファン活性化、意見を改善へと反映させるためのビジネスプロセスなどを挙げた。
ユーザーが体験をシェアし、共感できる場をつくる
お客様サービス、カスタマーリレーション部門グランプリ
「ブラパン(みんなの下着白書)」(株式会社ワコール)
お客様サービス、カスタマーリレーション部門グランプリを受賞したのは、ワコールが運営する下着のユーザーアンケートサイト「ブラパン(みんなの下着白書)」だ。共感を生み出す場を作るためにサイトを始めたと、ワコール 総合企画室広報・宣伝部 WEB・CRM企画課の川勝和美氏が概要を説明した。
現代の購買行動において、友人との共有情報が大きく影響するということ、いわゆるAISASモデルについては、多くのマーケッターが知るところだろう。しかし、下着の話題は友人同士でも話されず、アットコスメや価格ドットコムのような共有サイトもないため、クチコミが発生しづらく、AISASモデル通りにはいかないと川勝氏は話す。それならば、自社で場を提供しようと考えられた企画が「ブラパン」だ。「体験を提供し、共感を生み出す場を作りたい。下着の脳内シェアを高めることで、遠いかもしれないが、ワコールの下着を買っていただけるかもしれない
」(川勝氏)
普段話さないことだからこそ、きっと強みになると企画された「ブラパン」では、フリーアンサー形式で様々な質問が掲載されている。たとえば、「着替えの時、他人の下着を見ますか?」といった質問では、75%の人が見ると答えている。「言いかえると、ほとんどの人に下着を見られている。こうした、他愛のないアンケートでも、普段聞けないことが聞けて面白いといった声があります。面白いことに参加してもらいながらエンゲージメントを高めてもらい、最終的にワコールの支援者になってもらいたい
」(川勝氏)
アンケート企画のポイントは、「あくまでもユーザーが知りたいことを中心に企画する」ことだ。「どんな色の下着がほしいですか?」といった、メーカーとして聞きたい気持ちがあったとしても、それは本当にユーザーが知りたいことなのか、楽しいことなのかフィルタをかける。サイト運営は、企画、アンケート集計、CMSへの投入まで川勝氏が1人で担当しているため、コストはさほどかかっていないという。参加者の意識調査も行っており、アンケートのネタが切れたときにはヒントになるという。
サイトの改善点としては、フリーアンサーが長すぎて読みづらいという点が指摘された。ただし、アンケートは結果ではなく、フリーアンサーだからこそ面白いため、迷っているという。
当初は、2年ほどでネタがなくなり限界になると考えていたという川勝氏。現在は社内評価も高まり、リリースとして使いたいといった声もあることから、今後は活用の幅を広げていきたいと最後に話した。
宇宙・天文コンテンツを通じてイメージアップを図る
スチューデント部門グランプリ
「三菱電機サイエンスサイト DSPACE」(三菱電機株式会社)
学生・子供をターゲットにしたサイトを、実際に子供たちが評価するスチューデント部門を受賞したのは、三菱電機の「三菱電機サイエンスサイト DSPACE」だ。2001年12月31日までの1年間、政府主導で開催されたインターネット博覧会、通称「インパク」で公開された「すばる望遠鏡」のサイトが起源で、インパク終了後も宇宙や天文に関心のある人に向け、様々なコンテンツを提供している。
三菱電機と聞くと、多くの人は家電を思い浮かべるだろうが、人工衛星、電波望遠鏡など、日本宇宙産業のトップメーカーでもある。とはいえ、ウェブサイトを通じて何億円もする衛星を買おうという人はいないため、「宇宙・天文ファンの要望に応えながら、宇宙事業に携わる三菱電機のイメージアップを図ることが目的
」だと、三菱電機 宣伝部 ウェブサイト統括センター 専任の粕谷俊彦氏は話す。販売目的ではないため、文化や教育のためのサイトになるという。
2001年から続く「DSPACE」では、宇宙開発や天文に関するコラム、公募エッセイ、衛星打ち上げの取材レポートなどの特集コンテンツを提供している。新しいメディアも取り入れており、2009年8月にはTwitterアカウント(@twitDSPACE)を、2011年には三菱電機のエッセンスを伝える「from ME」のFacebookページを開設し、そちらでも情報を発信している。2011年1月の種子島でのロケット打ち上げ取材では、通常は記事だけで終わるところ、5日間の取材をツイートすることで何万というアクセスがあり、リアルタイムで盛り上がったという。「リツイートや返信もあり、つながりができた気がします
」(粕谷氏)
サイトのターゲットである中学生と高校生は、「DSPACE」どのように評価をしたのだろうか。粕谷氏は、慶応義塾湘南藤沢中等部と高等部の生徒114名による評価内容を「コメント欄は、どれもびっしりと書かれていて大変ありがたい
」と、いくつか紹介した。
良い点としては、写真が美しい、情報が豊富で勉強になるといったコンテンツに関するものから、文字の大小が変えられて良いという、専門的なコメントもあった。改善点としては、文字の量が多い、ごちゃごちゃとしてわかりづらい、小学生には難しいなどだ。また、「DSPACE」でやりたいことを聞くと、日食や星を見るツアーを企画したい、宇宙を題材に4コマ漫画を載せてみたい、という声があった。
全体的に中学生のほうが辛口だった話す粕谷氏は、最後に印象に残ったコメントとして、
ページもよくまとまっていますし、良いサイトだと思う。だから、もっと宣伝してみてはどうだろうか
僕としては、このサイトは僕の望んでいるものなので、今のままだろう
という中学2年生の評価を紹介し、ぜひ三菱電機に入って「DSPACE」をやってもらいたいと話し、フォーラム最後の講演を締めくくった。
- コーナー:編集部ブログ―池田真也
- 内容カテゴリ:Web担当者/仕事
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:大手14サイトのウェブマスターによるサイト運営の裏側一挙公開、「企業ウェブ・グランプリフォーラム」レポート [編集部ブログ―池田真也] | Web担当者Forum
Copyright (C) IMPRESS BUSINESS MEDIA CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.