Googleアナリティクスの進化が止まらない。しかし、その変化から、背景にあるシステムの状況やグーグルの思惑を推測すると、無料でGAを利用しているユーザーは進化を手放しで喜ぶだけでなく、起こりうるリスクに備えなければいけないのではないかという考えが浮かんでくる。
Googleアナリティクスの進化が止まらない。2011年には、新バージョンに続いて、マルチチャンネル、リアルタイムレポート、ビジュアルフロー、と矢継ぎ早に新機能がリリースされた。このペースは、マイナーな改善を中心とした2010年までのペースを明らかに超えている。
これまでは大きく進化してこなかったGoogleアナリティクス(GA)が、なぜこうした動きをしているのだろうか?
グーグルはGAを「アドワーズ広告の利用を促進するツール」から「利益を出せるプロダクト」へと生まれ変わらせるべく戦略を転換し、今後の拡張性を確保するために、根本的なプラットフォームを刷新する大きな投資を行ったのではないだろうか。筆者はそうみている。新バージョンは単なるデザインやUIのリニューアルではなく、機能面のさらなる強化を可能にするための下準備だったのだ。
Googleアナリティクスの足かせとなっていたデータ保存方式
Googleアナリティクスは、旧バージョンまでは集計された結果のみを保管していた。ページ閲覧やクリック時に毎回送信される膨大な生データを記録することはせず、既定の組み合わせの集計結果のみを保存するため、レポート作成時の集計時間が減る、保管データ量が少なくて済む、などのメリットがある。
集計結果しか保存していないのに、なぜ過去データに対してもセグメントをリアルタイムで適用できていたのか?
これは、セッション単位のデータをレポート作成時に都度集計しているわけではなく、あらかじめ想定した組み合わせのデータを収集時に保管しておくことで、疑似的なセグメント機能を実現したと思われる。だからこそ、ディメンションと指標の組み合わせが限定されていたのではないか。サンプリングモードになり、傾向値しかわからないこともある。フィルタを適用したままのセグメント作成にも制約がある。
つまり、Googleアナリティクスにおけるクロス集計やセグメント分析は「疑似的な多次元解析」でしかなく、データウェアハウスやBIツールによる無制限の動的でアドホックな解析ではないのだ(Data Warehouseのオプションを有効にしないで単体導入したSiteCatalystも同様)。
収集していないデータは、どんなに優秀なプログラマやアナリストを投入しても、集計できない。新しい組み合わせのデータが必要になるレポートを実装するためには、新しい組み合わせで新たにデータを収集する必要がある。
それでも投資を続けたグーグル
このような制約のため、Googleアナリティクスは2010年まではマイナーな改善を重ねるだけだった。
とはいえ、あまりアピールされることは無かったが、性能面ではレポート反映までの時間が当初の1日から改善され続け、後期には10分程度で反映されることもあった。この速度改善のために集計アルゴリズムを改善するだけでなく、サーバーリソースの割り当て増加も行ったのだろう。
アドワーズ広告などへの出稿を増やすための効果測定手段の提供という名目で、コストを負担して無料サービスを続けてきたのだと思われる。
飛躍のための思い切った投資
今のGAに話を戻そう。
GAにマルチチャンネルのレポートがリリースされた時に不思議に思ったのが、過去30日間に遡って分析できるという点だ。前述のようなデータ取得方法では、これはできないはずだ。ということは、マルチチャネルの分析用に、詳細データを別途保管するようになったのだろうか。
この新機能はGAの新しいバージョンでのみ利用可能だということを知ったときは、UIの改善のために新バージョンに開発リソースを集中しているからだろうと筆者は考えた。使い勝手を改善するのが新バージョンの意義なのだろうと思っていたからだ。
しかし、過去に遡ってデータを分析できるということは、どうやらグーグルはGAのプラットフォームを刷新するという大きな勝負に出たのではないかと考えられる。だとすると、データは別々で管理されるため、ハードウェア的にもソフトウェア的にも二重の管理と運用をしていることになる。
さらに、ビジュアルフローの機能についての説明を読んで、GAがデータ収集のプラットフォームを刷新したことがほぼ確信に変わった。何と、フローのレポートで過去のデータも分析できるという。
長い間Googleアナリティクスには無いと指摘され続けてきたフローの機能が実装されたわけだが、これまで実装できていなかったのは、UI設計や開発が難しいからではなく、データを保持していなかったからだ。以前のデータ収集のプラットフォームでは、ページの前後の関係性を捨ててアクセスカウンターのように日単位の合計値のみをカウントアップしていたため、前後の分析が不可能だったのだろう。v5でプラットフォームを刷新し、より細かいデータを取得するようにしたからこそ、より柔軟なレポート機能を実装できるようになった。
そして有料のプレミアム発表
そして、2011年10月には数年前から噂されていたエンタープライズ向けの有料サービス「Googleアナリティクス プレミアム」が発表された(日本でのサービス開始時期や価格体系はまだ発表されていない)。
部分的とはいえ有料化した今、GA無料版のユーザーにとってのリスクが増えたことになる。今からリスクに備えるため、何がどう変わって行くのか、予想してみよう。
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新しいレポート機能がもっとリリースされる
プラットフォームの刷新により、今までできなかったことができるようになった。有料版をリリースした今、競合との差を埋めて追い越すために新機能の追加が今後も続くだろう。これは、無料版ユーザーにとってもメリットがある。
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他のツールとの連携強化
これまでは、APIでは集計結果しか得ることができなかったが、セッションデータを活用し、より柔軟な連携が可能になるだろう。セッションデータをエクスポートする機能さえリリースされるかもしれない。ただし、コストと価値を考えると、これはプレミアム版のみのサービスになる可能性が高い。
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無料版がお試し的な位置付けになる
エンタープライズ向けのプレミアムは導入が進むほど、不具合が許されないレガシーシステムになり、保守的になっていく。無保証の無料版で実験や検証が行われるようになるようになるのではないだろうか。新機能はまず無料版で先行リリースされ、バグが見つかって治り、安定してからプレミアム版でリリースされる。実際、無料版のGoogleアナリティクスはロゴの下にbetaの表記が追加されている。
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無料版v5のレポート遅延は解消されない。
セッションを保持する方式のプラットフォームでは、収集とは別のタイミングで実行する集計のためにリソースが必要になる。リソースを割り当てれば割り当てるほど速度は速くなるため、コストをどこまでかけるのが顧客満足度のROIが高いか、という話になる。
プレミアムはSLAにより処理時間が保証されるため、必要なだけサーバーリソースを追加する一方、無料版にはあまりリソースを割り当てなくなるのではないだろうか? プレミアム版の発表と同時にリアルタイムレポートが発表されたが、これはリアルタイムにデータが反映されるシンプルで独立したレポートが追加されただけであって、Googleアナリティクス自体がリアルタイムになったわけではない。
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古いプラットフォームの収束
処理後のデータのみを保存する旧プラットフォームと、生に近いデータを保存する新プラットフォームがあるということは、運用コストがダブルでかかっているということを意味する。新バージョンをデフォルトとし、本格運用を開始した後は、古いバージョンでの新規プロファイル作成を凍結し、段階的に廃止していくのではないだろうか。すでにUIや新機能の追加は止まっている。
と書いた後に、旧バージョンのインターフェイスでのGoogleアナリティクスの提供を2012年1月には終了すると言うアナウンスがあった。最近の別のアナウンスでは、来年の前半、とも表現された。いずれにせよ、収束に向かっていることは確かだろう。
以上、推測に基づき、今後の動きを予測してみた。次々とリリースされる新機能を手放しで歓迎するのではなく、無料ツールを使うことのリスクを把握し、予想される今後の変化に備える必要がある。
具体的には、何ができるだろうか?
GAの無料版ユーザーができること
- 新バージョンを積極的に使い、早めに運用を切り替える
- 不具合や要望を直接伝え、改善を働きかける
- (リアルタイムレポート以外の)レポートの遅延が許容できない場合は、改善を期待しないで他のツールを併用する
- 解析の信頼性や安定性が重要なサイトでは、Googleアナリティクスプレミアム(日本での提供が始まったら)への移行や他のサービスの併用を検討する
あくまでも推測に基づいたものだし、実際のところグーグルがGoogleアナリティクスをどうしていくのか、そして無料版ユーザーをどう考えるのかは、わからない。しかし、予測して備えておくことで、何かあったときにあわてなくて済むのではないだろうか。
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オリジナル記事:Googleアナリティクスの無料版ユーザーが今後、気をつけるべきこと | Web担当者Forum
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