企業サイトで動画を利用する方法をイチから解説するこのコーナー。最終回では、動画を積極的に活用するための方法や押さえておきたいポイントを、事例とともに紹介します。
いま、動画活用は新たなフェーズに入ってきました。視聴者側(顧客)を取り巻く環境を見ても、ここ数年での動画共有サイトの利用頻度増はもちろんのこと、スマートフォンやタブレットなどの出現で動画に触れる機会が増し「動画のコモディティ化」が一層進んでいます。企業側としても単に動画を配信するだけではなく、マーケティング視点で動画を活用する事例が増えてきました。
ここからは、私たちが考える、押さえておきたい3つのポイントについて、いくつかの事例とともに説明します。
- 動画の種類と目的を明確にする
- 動画SEO
- マルチデバイス対応
動画の種類と目的を明確にする
今回初めてWeb用に動画を制作する企業もあれば、すでにマスメディアや展示会など、リアルな場所で使う映像を制作している企業もあるでしょう。どんな映像もWebに展開することは可能ですが、必ず押さえておくべきポイントがあります。それは、
Web上で配信する動画の種類と目的を理解し、
それに応じた効果指標を設定する
ということ。高い効果のあったテレビCMを、Webサイトの商品購入ページで配信したところで、同じ効果は得ることはできません。理由は明らかで、視聴者の視聴態度がまったく違うからです。
Webサイトを訪れるユーザーの多くは、検索して情報を探すなど、基本に能動的なアクションをとっているため、動画の視聴者は目的となるゴールへすぐに進みたいのが現実です。そのため、テレビでよく使われるような演出、たとえばコンテンツが始まる前に共通の15秒ジングルムービーをつけるといった演出をすることで、その間に視聴者が離脱してしまうといったことが、動画解析ツールなどで一目瞭然になります(動画の効果測定や解析ツールの詳細は第4回を参照)。
これは制作者側としては当たり前のことですが、再生数などの結果がWeb上では数値化されるため、マーケティング担当者としては、その数値の振れ幅に悩まされることになります。
能動的に、目的を持ってアクションを行うWeb上の視聴者は、いち早く動画を使って情報を得たいという要望が強いため、動画の掲載する場所、その動画がもたらす目的などをきっちり理解したうえで活用することがポイントとなります。動画は文字より情報を理解しやすいというメリットがありますが、こうしたWebならではの特性を理解することが必要です。
事例で知る動画マーケティングの実践効果
以下に、弊社がかかわった事例をもとに、動画を活用しているいくつかの企業の「動画の種類と目的」「活用によって得られた成果」をまとめました。予算15万円でこれらと同じ規模の施策を行うのは難しいですが、どのような目的で動画を活用しているのか、事例として参考になるはずです。
ここで紹介するのは、次の4つの事例です。
それぞれの事例を、「動画の種類と目的」「活用によって得られた成果」に着目しながら紹介していきます。
キヤノンカメラミュージアム(キヤノン株式会社)
http://web.canon.jp/Camera-muse/
キヤノンが展開する「キヤノンカメラミュージアム」は、企業ブランドそのものの魅力をより深く知ってもらうことを目的としたサイト。広告色を極力排除し、キヤノンが持つ歴史や高い技術の蓄積を感じることのできるコンテンツが多数収められています。
サイトでは、カメラやレンズがどのように作られているのかを、オンライン上でリアルに感じてもらうために、映像を活用しています。レンズを1300度もの高温で溶解するシーンや、デザイナーの作業風景など、普段、自社の社員も目にすることがない映像を、内部資料も交えて公開しています。出演者は、技術者をはじめとした担当社員です。
2006年に同サイト内にある「バーチャルレンズ工場」を、動画をはじめとしたリッチな表現を用いてリニューアルした際には、リニューアル前の数十倍にアクセス数が増加し、検索順位も大幅にアップしました。広告告知などは一切行っていませんが、映像によるわかりやすい情報発信や貴重な映像がクチコミで広がり、海外の人気ブロガーに紹介されたり、自社製品ユーザーに限らず広くカメラファン全体に注目されたりするなど、話題を呼びました。ユーザーからは、「交換レンズの価格がなぜ高いのか、よくわかった」という声が寄せられ、教育現場の教材として活用されることも多くあります。
また、別コンテンツである「カメラのデザインができるまで」も、2011年1月に動画をふんだんに使用したリッチなサイトへリニューアルしたところ、リニューアル直後から、日本語版は2.5倍、英語版は3.5倍へとPVが拡大しました。
「カメラミュージアム」は、欧米だけでなく、インドやシンガポールといったアジア圏からのアクセスも増加傾向にあり、新興マーケットからの反響も高いそうです。キヤノン中国の社長から『市場の成長が著しいので、カメラブランドを訴求するのに、歴史的な裏打ちがあるものをネット上に公開してほしい』という依頼があり、中国語展開も同時に行ったというエピソードもあります。
シーラボTV(株式会社ドクターシーラボ)
http://www.ci-labo.com/tv/
機能性化粧品の老舗であるドクターシーラボでは、2001年からメーカー直営の化粧品ECをいち早く手がけ、自社サイトでの動画活用をPC、携帯電話、スマートフォンと積極的に展開しています。ユーザーとの双方向メディアとして自社サイトを位置づけていましたが、そのために意識したこととして、「“おもてなし”する自社サイトであること」「手軽に見られること」「わかりやすいこと」の3つを挙げています。
2009年からは、全商品の「使い方動画」をPC、携帯、スマートフォン向けに発信開始していますが、動画活用のきっかけとなったのは、ユーザーからの「効果が感じられない」という声でした。化粧品は、力の入れ具合、化粧水の付け方、マッサージする方向の動きなど、使い方が大きな効果の違いを生むのですが、「効果が感じられない」というユーザーには正しい使い方が伝わっていなかったのです。
実際、化粧品の使い方を検索するユーザーは多く、動画によるわかりやすい情報提供を行うことが、潜在顧客層を誘引する役割も担っています。また、既存顧客へのサービス向上という点でも、理解不足による商品への誤解回避によって、化粧品の効果を最大限に感じてもらうことが、リピート促進にもつながります。
ニッセンTV(株式会社ニッセン)
http://www.nissen.co.jp/all/special/nissen_tv/
カタログ通販大手のニッセンは、2011年1月から動画に特化したネット通販チャネル「ニッセン TV」を立ち上げ、PCサイトのほか、タブレット、iPhone/Androidアプリも展開しています。これは、動画を使った購買促進「V(Video)コマース」という取り組みです。
ニッセンTVは、動画によって商品の細やかな風合いや素材感、使用方法、実際の動きなどをよりわかりやすく伝え、購入検討における不安要素の払拭や商品本来の魅力を理解してもらうことを目的としています。
画面の大きいPCやタブレット向けサイトでは、1ページあたりの掲載情報を多くし、スクロールなしで見られる動画サイトとすることで、比較検討やまとめ買いが楽にできるような動画掲載を行っています。表示画面の大きさを活かし、画面上部で動画を再生しながら、プレイヤー下半分に掲載されるカテゴリから、見たい動画を選べるインターフェイスにしています。また、動画の再生中には、内容に応じてプレイヤーの右横に関連商品の画像表示がされ、購入ページへ移動できるようにしています。
一方、iPhone/Androidアプリでは、画面サイズを配慮し、ぱっと見てコンテンツ選択がしやすい作りにしています。各動画には、「お気に入りに追加」ボタンがあり、商品や動画カテゴリに関係なく、動画を一箇所に集めることができるようにし、ユーザビリティの向上を図っています。これは、隙間時間を利用してアクセスしてくるモバイルユーザーの特性にあわせ、目的の動画(商品情報)を手間なく探してもらえるというユーザーサポートの意図で行っています。
「ニッセン TV」公開開始直後から、スマートフォンのアプリダウンロード数は順調に増加し、PCサイトのアクセス数も増加傾向が続いています。また、日本のカタログ通販事業において動画に特化した通販チャネルの登場は、メディアや業界内外、Twitterをはじめとしたソーシャルメディア上でも大きな話題を呼びました。
CMライブラリー(大阪ガス株式会社)
http://home.osakagas.co.jp/cm_lib/
人気のネット動画を詳細ページへのフックとして活用し成功しているのが大阪ガス株式会社です。同社では、CMをキラーコンテンツとして2005年より常設していましたが、数年前にCMライブラリーをリニューアルし、再生プレイヤーも新しい作りにしました。新しい再生プレイヤーでは、視聴動画の横にカテゴリごとのタブが並び、カテゴリごとの再生回数順に関連動画が表示されます。人気CMの把握が容易にできるようにすることで、キラーコンテンツである動画の回遊率を高め、ブランドへの接触時間の拡大を図りました。また、動画の直下にCMに関連した商品ページへのリンクを掲載し、誘導促進も図っています。
動画サイトリニューアル後、CMライブラリーはPV数130%アップ、ページ滞在時間35秒アップ、商品ページへの遷移数180%アップという成果を上げています。
ここで紹介した事例のように、「動画を活用してブランディングを行う」「商品の正しい使い方を理解してもらう」「購買行動の後押しを行う」「見てもらいたいページへの誘導促進をする」など、さまざまな活用シーンが増えてきています。
- 動画SEOに各社が注目
- 動画配信プラットフォームで基本的なSEOに対応
- マルチデバイス対応が鍵になる
- スマートTVにも注目
動画SEOに各社が注目
動画を見てもらうための導線対策が重要であることは第3回でも話しましたが、ここ数年、各企業が注目しているのが動画コンテンツの検索エンジン最適化「VSEO(Video Serch Engine Optimization)」です。動画をWeb上における資産として有効活用し、他社との差別化につなげようというのが狙いです。
VSEOの考え方は、通常のSEOと同じですが、動画コンテンツは通常のWebページと比較してインデックス化しにくいという問題があります。たとえば、検索クローラーは動画にどんな登場人物が出てくるか、どんな楽曲、音声が使われているのかといった、動画コンテンツの中身や動画の目的を識別できません。そこでGoogleをはじめとした検索エンジン各社は、最適化支援ツールなどの提供を始めています。
動画SEOとは、簡単に言えばこれらのツールを使って、動画コンテンツを検索エンジンが認識できる文字情報に置き換えてあげることです。参考までにGoogleのウェブマスターツールに動画コンテンツの情報を記載した動画サイトマップ(Videoサイトマップ)作成のガイドラインが示されています。最近では、動画サイトマップを自動的に生成することのできるサービスなどがでてきましたので、それらを有効活用するのも1つの手です。
事例を1つ紹介すると、釣り具メーカーの株式会社シマノが運営している「SHIMANO TV」のコンテンツに対して動画SEOを始めています。たとえば、Googleで「磯釣り」と動画検索すると、動画共有サイトの次に「SHIMANO TV」のサムネイルが表示されます(2012年1月20日現在)。
検索して能動的に情報を探しているユーザーを、「動画」というコンテンツをフックにしてダイレクトに自社サイトへ誘導できる、動画資産の有効活用ができているケースといえるでしょう。
動画配信プラットフォームで基本的なSEOに対応
ここ数年、検索エンジン各社は動画コンテンツの取得に力を入れていますが、それと同時に動画配信プラットフォームサービス各社も動画SEOに力を入れてきています。そのため、動画SEOで一番手っ取り早いのは「YouTube」などのプラットフォームへの登録と最適化の対策でしょう。当然、Googleの運営するYouTubeであれば動画SEOの基本を押さえていますから、手順に沿って動画をアップしていくだけで、基本的な対応が可能です。
上記、動画サイトマップを検索エンジンに送る方法以外では、mRSS(media RSS)のフィードを活用する方法もあります。また、2009年にGoogleは動画の登録方法として、「Facebook Share」と「Yahoo! SearchMonkey」で利用されるRDFaのサポートを開始しました(Google Webmaster Central Blog)。
マルチデバイス対応が鍵になる
最後に、今後の動画マーケティングにおいて重要となるマルチデバイス対応についてお伝えします。MM総研が発表した市場調査(2011年7月)によると、2015年にはスマートフォンの契約数が50%を超えると予測されており、スマートフォン、タブレットPCの存在はやはり見逃せません。
Jストリームが行ったユーザー調査(2011年11月発表)では、スマートフォンのネット利用によってこまめなネット利用が増大し、1日の総ネット利用時間が増えたと回答する人が約半数ありました。ネット検索の利用状況では、PCが96.2%、スマートフォンが81.3%と併用して利用している状況です。
コンテンツ視聴関連では、「よく見る」「たまに見る」の合計で「動画視聴」63.3%)、「音楽視聴」(56.0%)、「ゲーム」(39.5%)、「電子書籍」(25.8%)という回答結果でした。別の質問では、スマートフォンの利用によって「動画の視聴時間が増えた」と20.3%が回答しています。スマートフォン閲覧において、企業サイトや商品サイトに求めることをたずねたところ、「手軽に見られる」(53.7%)、「情報を短時間で理解できる」(35.1%)という回答結果でした。
ユーザーの利用状況からも、スマートフォンのインターネット動画視聴の需要の高まりを感じ取ることができます。一方で、日本ではまだまだフィーチャーフォン(ガラケー)の存在を無視することはできません。このように今までのデバイスに取って代わるというわけでなく、より多種多様に端末が増加し、それにあわせて企業側も対応していくことが迫られている状況です。
前述のドクターシーラボでは、PC、フィーチャーフォン、スマートフォンの各サイトで動画対応をしていますが、スマートフォン同様フィーチャーフォンへの対応を重要視しています。なぜなら、ユーザーが化粧をしたり、コスメ用品を使ったりするのは、机の上でなく鏡の前であり、鏡に向かっているときに動画再生するデバイスとして重宝するのは、省スペースでも置くことができるモバイル端末だという発想です。もちろん、じっくり構えていろいろな動画を見るという点で、PCも重要視している点は変わりません。
また、Jストリームが行ったオンラインショッピングに関する調査(2012年1月発表)では、オンラインショッピングサイトでの動画視聴経験について、「ある」との回答が8.5%とまだまだ少数ながらも、52.2%は動画があれば視聴したいと回答しています。オンラインショッピングにあるとよいと思う動画のジャンルでは、「製品の特長を解説したビデオ」(50.4%)、「使い方を説明したビデオ」(50.2%)がそれぞれ過半数を占めており、動画の役割としては「商品の理解が深まると思う」(56.9%)、「探している商品かどうか判断するのに役立つと思う」(49.1%)が上位に挙げられました。
調査結果からは、オンラインショッピングでの掲載情報の不足を感じるユーザーが多い一方で、動画視聴に対して、商品詳細やイメージ、正しい知識を理解しやすくなるという期待があることがうかがえます。
スマートTVにも注目
マルチデバイスと同時に注目しておきたいのがスマートTVの動向です。テレビは昔もこれからも動画と一番親和性の高いデバイスです。ネットとテレビの融合は昔からいろいろな形で提唱、実践されていますが、スマートTVの普及が大きな波を起こすことは間違いないでしょう。
ネットに対応したテレビ端末を利用し、テレビとネットのコンテンツの垣根を感じさせることなく、双方にシームレスにアクセスできるようになれば、ユーザーはその両方を意識せずに、必要な情報を取得するためのデバイスとして利用するようになるでしょう。これからのデバイスニュートラルな時代に、動画は強力なコンテンツになっていくと考えています。
全5回にわたり動画マーケティングの活用方法を伝えしてきました。これから動画マーケティングに取り組む企業、フェーズを検討している企業、それぞれにおいて活用促進のきっかけ作りになれば幸いです。
動画は自社サイトでの有力なコンテンツになることは間違いなく、メディアニュートラルな時代では、自社サイト以外のメディア(マスメディア、ソーシャルメディアなど)でも顧客との接点を強化するツールにもなります。また動画に最適なデバイスの登場、配信環境の高性能化など動画を後押しする要素が今後もたくさんあります。筆者が所属するJストリームとしても、動画をとりまく環境の変化にいち早く対応し、企業の動画マーケティング実践のパートナーとして活動してきます。
- 記事種別:解説/ノウハウ
- コーナー:15万円でゼロから始める動画マーケティング
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オリジナル記事:動画マーケティング事例5つに学ぶ活用法と動画SEO | 最終回 [15万円でゼロから始める動画マーケティング] | Web担当者Forum
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