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誰もが知っている有名サイトをエキスパートレビューしながら、「もし、アクセス解析するなら」どのポイントに着目するかを第三者的な視点から解説。アクセス解析を用いてサイトの改善を行うための仮説構築力を身につけて、自社サイト、クライアントサイトをアクセス解析する際に役立ててほしい。
毎週・木曜9時は「かってに解析!」。誰もが知っている有名サイトをかってに取り上げ、「もしもアクセス解析をするならば、どこに目をつけるか?」という視点で、サイトの問題点やチェックポイントにあたりをつける方法を解説していく。
今回も「札幌ドーム」のWebサイトを取り上げる。前回と今回、2回にわたり、イベント施設のWebサイトを取り上げ、課題の抽出や考察を行うのだが、筆者はイベント施設にかかわる各企業やサイトが直面している課題や戦略・戦術を十分に理解しているわけではない。あくまでもどのような点に着目したらよいのかを重視して読んでいってほしい。
長らくご愛顧いただいたこの連載だが、今回が最終回となる。では、最後の「かってに解析!」を進めていこう。
「札幌ドーム」の閲覧シチュエーションを想定
前回説明したが、念のため、繰り返しておこう。サイト利用シナリオは、「アマチュアサッカーチームのマネージャーが、サッカー練習場、あるいは試合場として札幌ドームを使えないか調べたい」という目的で訪問した、というものだ。
誰が |
草サッカーチームのマネージャー |
何の目的で |
札幌ドームのサッカー施設を利用してみようと調査しにサイトを訪問 |
具体的には |
施設の詳細、利用できる日、利用料金を調べたい |
「札幌ドーム」をエキスパートレビュー!
前回のおさらい
前回はまず、検索サイトで「札幌ドーム」と検索し、自然検索結果ページで1位に表示されていたリンクをクリックして、「札幌ドーム」のトップページを訪れるところから始めた。
トップページは総じてコンパクトな作りとなっていて、英語版、韓国語版、中国語版へのリンクが設置されていた。
グローバルナビゲーションのラベルを見れば、サイト全体の構成がだいたい想像できる作りだったが、「ドームスケジュール」と「イベントカレンダー」の違いだけが、ピンと来なかったので、順番に見てみた。
「イベントカレンダー」は、当月を含めた3か月間のイベントが一覧できるページで、もう一方の「ドームスケジュール」は、当日の営業時間と開催イベントの案内で、要するに「本日の札幌ドーム」のことだった。
前回はここまで。今回は閲覧シナリオに沿って、施設の設備情報や、利用料金などを見ていくことにしよう。
トップページの「主催者様へ」をクリックしてみた
今回の閲覧シナリオは、「施設をイベント開催者(マネージャー)として使ってみたい」という目的なので、グローバルナビゲーションの上にある「主催者様へ」(図3の紫枠で囲んだ部分)か、グローバルナビゲーションの「施設利用・見学」(図3の黄枠で囲んだ部分、右から3つ目)が該当しそうだ。
まず「主催者様へ」をクリックしてみた。表示されたのが「主催者様へ」のページだ(図10)。
こちらのページは、どうやらアリーナを使うような巨大イベントが対象のようだ。「利用料金表」を見ると、「観戦・鑑賞型イベント」が1日800万円、それ以外のイベントが450万円となっている。どちらも数百万円単位で、1日(7時から24時までが基本)利用というのが原則だ。とても小さな団体や組織が使える金額感ではない。このページには、今回の目的とする情報は掲載されていなかった。
- グローバルナビゲーションの「施設利用・見学」をクリックしてみた
- 「サッカー一般利用」のページへ移動する
「札幌ドーム」をエキスパートレビュー!(続き)
グローバルナビゲーションの「施設利用・見学」をクリックしてみた
そこで、もう1つの候補であるグローバルナビゲーションの「施設利用・見学」をクリックしてみた。現れたのは「館内案内図」のページで(図11)、館内の施設案内が中心のページだ。ここは単に利用者として来たときに、どんな施設や売店などがあるのかを確認するのに適したページだ。
いつも営業している施設群(図11の青枠で囲んだ部分)と、アリーナでイベントがあるときだけアリーナ内で営業している飲食店(図11の赤枠で囲んだ部分)に大きく分かれて記述されている。
パッと気が付くのは難しいかもしれないが、この「館内案内図」ページのメインビジュアル直下の部分に「野球一般利用」「サッカー一般利用」といったリンクがある(図11の緑枠で囲んだ部分)。どうやら目的のリンクはここにあったようだ。
確かに、この「施設利用・見学」に属するコンテンツであるとは思うのだが、来訪目的別で見る軸が欲しい感じがする。例えば「イベント主催者」「イベントの観客」「自分で施設を使う人」「観光目的の訪問」みたいなWebサイト利用の立場別のナビゲーションの軸がもう1つ明確にグルーピングされているとよいように感じた。
「サッカー一般利用」のページへ移動する
それでは「サッカー一般利用」のリンク(図11の緑枠で囲んだ部分)をクリックしてみよう。「サッカー一般利用」のページ(図12)へ移動する。
このページの上部には
- 「屋外サッカーステージ」
- 「屋外サッカー練習場」
- 「屋外アリーナ」
の3つのボタンがある。場所によって選択肢を提示しているのはわかりやすい(図12の緑枠で囲んだ部分)。
ページをスクロールして下に読み進んでいくと、「利用形態」「各サッカー場について」「空き状況確認と利用申込方法」といった情報の記載がある。ざっとは理解できたが、利用料金が書いていないので、それぞれのページで確認しなければいけないようだ。
上の3つのボタンに戻る。「屋内アリーナ」は料金が高そうだから、「屋外サッカー練習場」のページをまず見てみよう。真ん中のリンク(図12の赤枠で囲んだ部分)をクリックしてみると、「屋外サッカー練習場」のページへ移動する(次ページ図13)。
- 「屋外サッカー練習場」の説明ページ
- 施設の利用予約のしかた
「札幌ドーム」をエキスパートレビュー!(続き)
「屋外サッカー練習場」の説明ページ
図13が「屋外サッカー練習場」のページだ。
「利用案内」「利用料金」「利用規約」のコンテンツへのリンクがあるようだが(図13の緑枠で囲んだ部分)、最初にページを表示した際には、「利用案内」が選択されている。一番の関心事である「利用料金」にすぐにたどり着けないのが少々もどかしい。
1枠(申し込みの最小単位)の利用時間は、天然芝練習場なら3時間、人工芝練習場では2時間で(図13の赤枠で囲んだ部分)、申し込みは「札幌市公共施設予約情報システム」(図13の青枠で囲んだ部分)で行うらしい。
施設の利用予約のしかた
「札幌市公共施設予約情報システム」のリンクをクリックすると、「札幌市公共施設予約情報システムのご案内」のページ(図14)を介して、「施設予約サービス」のページ(図15)に行く。
初めて予約をする人は、まず登録が必要となる(図15の青枠で囲んだ部分)。この予約システムは、「札幌ドーム」とは別のWebサイトになるので、今回はこれより先に進むのはやめておくが、行政の施設共有で各施設の予約機能やスケジュール管理が集約されているのは結構よいかもしれない。
- 施設の利用料金はいくら?
- 施設の場所とアクセス方法を確認したい
- 「札幌ドーム」のページの作り方の特徴
「札幌ドーム」をエキスパートレビュー!(続き)
施設の利用料金はいくら?
次に、利用料金を見てみよう。「利用料金」(前ページ図13の黄枠で囲んだ部分)をクリックすると、表示されたコンテンツは変化して、利用料金の一覧表が表示されるが、URLに変化はない(図16)。
図16:「屋外サッカー練習場」の「
利用料金」ページ
一般なら天然芝で3時間7,200円、人工芝2時間で4,800円ということだ。意外と利用しやすそうな価格になっている。
ついでに、「屋外サッカーステージ」の料金と、「屋内アリーナ」の料金も見てみることにする(図12の緑枠で囲んだ部分をクリック)。
「屋外サッカーステージ」は平日10万円、1枠は3時間ということなので、やはり練習場とは格段に値段が違う。「屋内アリーナ」も平日1枠3時間で、6万円から9万円と利用人数に応じて幅がある。やはりそれなりの料金だ。「屋外サッカーステージ」と「屋内アリーナ」の2つは、「札幌ドーム市民利用受付」電話で申し込みをして、申し込み多数だと、利用前々月10日に抽選で決定するという仕組みだった。
屋内アリーナは人工芝なので芝が荒れるとかの影響は少ないと考えられるが、サッカーでの利用も2011年秋から開始することで、さらに稼働率を上げるように取り組み始めているのだろう。
施設の場所とアクセス方法を確認したい
次は、札幌ドームの施設の場所を確認しておこう。グローバルナビゲーションの「アクセス・駐車場」を選択する。「札幌市内位置図」のページ(図17)に来るが、それぞれ最寄りの駅などからの所要時間の記載はない。
メインビジュアルの下に、「交通案内」「駐車場案内」といったリンク群があるので(図17の青枠で囲んだ部分)、その中の「交通案内」をクリックすると図18が出現する。
これで詳細は確認できた。
「札幌ドーム」のページの作り方の特徴
こうしてくまなくこのWebサイトを見てくると、このサイト全体のページの作り方が、だんだん見えてくる。グローバルナビゲーションのメニュー(たとえば「アクセス・駐車場」)をクリックすると、第2階層のサブメニュー(位置図、交通案内、駐車場案内、徒歩・自転車・バイクでのご来場)の一番左にあるページ(位置図)が表示される。第2階層のコンテンツはここから選択するというのが基本的な構造になっているようだ。現在いるページの所在もわかりにくいので、この構造であれば、サブメニューをタブのように見せて、現在地を明確にした方が親切だろう。
あるいは、例えば図19の会社案内のページのようにしてもよい。メインビジュアル直下に横にリンクが並んでいる(図19の黄枠で囲んだ部分)が、これらのリンクを立てに単純に並べたページの作りになっている(図19の赤枠で囲んだ部分)。
リンクの存在や階層構造はこちらの方がわかりやすい。ただ現状、横幅がコンパクトになっているので、もしリニューアルの機会があるとしたら、上部にはグローバルナビゲーションとメインビジュアルの作りはそのままで、その下は2段組みでサイドバーを増設して、左か右にサイドメニューを配置する。そこに第2階層へのリンクを並べるとスッキリするのではないか。
「札幌ドーム」をエキスパートレビュー!(続き)
ついでに、その他の施設紹介ページも見てみた
将来トレーニングルームなども利用してみたいと思っていたので、グローバルナビゲーションの「施設利用・見学」カテゴリーにある「トレーニングルーム」のページも覗いてみよう(図20)。1回500円で利用できるようなので、近場に住んでいる人には重宝するかもしれない。
札幌ドームには展望台などもあり、団体料金も設定されている(図21の青枠で囲んだ部分)。団体料金はもっと大胆に下げてもよいような気がするが、単に観光施設としても楽しめるだろう。実際ドームツアーと共通券というのもある(図21の赤枠で囲んだ部分)。
そのあたりのアピールができるともっとよいのではないだろうか。さすがに「札幌市 観光」なんてキーワードで検索連動型広告をガンガン出していいのかどうか判断は安易にできないが、必ずしも大きなイベントだけでない普段の集客というのも稼働率を上げるためにはじわじわと効いてくるように思える。
- アクセス解析的な視点でのチェックポイント
- 連載全体のまとめ:Webサイトの問題点をどのように考えていくか?
アクセス解析的な視点でのチェックポイント
最後にアクセス解析的な視点で見るべきポイントをまとめておこう。
- トップページについて
現状把握には、まずクリックマップのようなツールで、トップページからのリンクはどこが多いのかということを把握したい。新着情報などはあまりクリックされていないように思えるがどうだろうか。
また、コンテンツが大量にあるわけではないので、コンテンツの種類、来訪者の種類など複数の軸で誘導するようなリンク構造にするのが有効な気がした。できれば同一訪問内で閲覧するコンテンツを調べて、親和性の高いコンテンツをグルーピングするような見せ方ができればと思う。
グローバルナビゲーションに関しては、マウスオーバーすると第2階層が表示されるようになると、いちいちクリックして次のページを確認する手間も省けるし、行きたいページへ直接誘導することも可能になるだろう。
あとは「ドームスケジュール」などのラベルが分かりやすいかどうかという点が気になる。これは他のページでもそうだと思うが、何かのタスクを与えて実際にやってもらうユーザーテストを行うことで、分かりにくい表現などをピックアップしていくとよいのではないか。
細かい点では、文字の大きさの変更や、別言語への翻訳などの割合がどの程度あるのか、他国からのアクセスがどのくらいあるのかは把握しておきたい。外国からの観光というのは、観光施設で無視できないポイントになるだろう。
また、トップページを含めてindex.htmlというファイル名付きでも無しでもアクセスできるので、同一コンテンツでURLが複数存在する問題があったのは気になった。本来はリダイレクトなどで、URLは1つに集約した方が、検索エンジン最適化上もアクセス解析でも楽だろう。
- サッカー一般利用のページ
このページでは、「利用案内」「利用料金」「利用規約」のコンテンツが同じURL内で処理されている点が気になった。アクセス解析ツールによっては、どのコンテンツが見られているのかを判別できない可能性もあり、どのコンテンツを見ているのかがきちんとわかるように計測する工夫を凝らしたい。
連載全体のまとめ:Webサイトの問題点をどのように考えていくべきか?
今回はコンテンツのボリュームが膨大だったわけではないので、見るべきポイントはそれほど多くなかったが、今までの連載も振り返って、改めてどのようにWebサイトの問題点を考えていくべきかというのを、連載を終えるにあたり、簡単にまとめておきたい。
賢明な読者はお気づきだと思うが、この連載では、基本的に何か突拍子もない理論を振りかざしてきたつもりもないし、目を見張るようなテクニックを駆使したこともない。ごく当たり前の話しかしてこなかった。当たり前の視点からでも様々な問題点を発見していくことができると感じていただけたら幸いである。
個々のWebサイトの事情を知っていれば、もちろんもっと有効な手段を提供できたかもしれないが、本連載では、そういった個々の特別な事情や数字は未知であるという前提で話を展開してきた。
しかし第三者としてWebサイトを見てきても、様々な問題がありそうなことは容易に想像できた。皆さんも、第三者の視点で、自分のサイトをぜひ振り返っていただきたいと思う。私がやったアプローチはそれほど多くはない。ポイントは3つに絞れる。
まずユーザーのことを想像する
Webサイトは様々な人たちが訪問する。しかし、ある程度典型的なユーザー像は何種類か想定できるはずだ。ペルソナなどといった専門用語を持ち出すまでもなく、こんな人が来ている、こんな人が来てほしいというユーザー像はWebサイト運営者なら持っているはずだ。ではその人たちにとって、例えば、トップページは分かりやすく出来ているか、よく訪れそうな入口ページは分かりやすく出来ているか、そういうことを想像してWebサイトを作っているか。つまり、実際のデータを活用しているかということだ。
データから分かりにくいこともある
一方で、データはすべてを明らかにしてくれるわけではない。もちろん、アンケートの調査結果が時として回答者の理想像を語っているに過ぎない場合があるということに比較すれば、アクセス解析データはユーザーの自然な行動の集積なので、より正直だ。しかしデータは時として膨大で、例えば無限に発散する経路の分析をしても問題点が簡単に見つかるわけではない。
そんな時に有効なのは、A/Bテストのように、ある成果を達成する確率の優劣で判断するという方法だ。これは定量的な手法でどちらが優れているのかを相対的に検証する方法である。
またもう1つ有効なのはユーザーテストで、定量的ではないが、定性的な手法で主要な問題点を浮き彫りにする手法だ。5人の被験者にあるタスクを行ってもらって出てきたエラーで、全エラーの85%が発見できるともいう。
アクセス解析以外の定量的、定性的調査についてもお薦めしてきたが、様々な手法を使ってWebサイトの改善に活用してほしいと思う。
仮説検証型のアプローチ
最後に仮説検証型のアプローチをお薦めしたい。上記の2つの前提とも言えるのだが、最終的にはWebサイト運営者自身が、何らかの問題意識を持っているということが大事だ。問題意識を持っていれば、こうした方がいいのではないか、なぜならこうだと思うからという仮説が自然に浮かんでくるだろう。
問題意識を持っていれば、改善案をぶつけるA/Bテストだってできるし、データもそういう目で比較検討することができるようになるはずだ。Webサイトは1日にしてならず。つねに「現在のWebサイトは、最高の状態に比べれば仮の姿でしかない」ということをベースに、どうしたらもっとよくできるかということを意識しながら、できることからコツコツと、日々着実にWebサイトを少しずつ良くしていっていただければと思う。
◇◇◇
毎週・木曜9時の「有名サイト、かってに解析!」は、定期連載としては、今回でいったん終了します。みなさんのご愛顧に感謝いたします(編集部)。
衣袋教授の丸2日でアクセス解析を徹底的に学ぶ講座「アクセス解析ゼミナール」を2012年4月17日と4月24日に開催します。主催はアクセス解析イニシアチブ。3月内申込みで早割あり。 → http://a2i.jp/activity/training
衣袋 宏美(いぶくろ ひろみ)
1960年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業。大手電気メーカー勤務後、日経BP社インターネット視聴率センター長を経て、2000年ネットレイティングス入社視聴率サービス立ち上げに参画、2006年ネットレイティングス社フェローに就任。株式会社クロス・フュージョン代表取締役。またデジタルハリウッド大学院客員教授、米Web Analytics Association会員、アクセス解析イニシアチブ副代表。
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オリジナル記事:もしも、「札幌ドーム」を解析するなら(後半)[第59回(最終回)] [有名サイト、かってに解析!] | Web担当者Forum
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